Variations on a Silence | Variations on a Silence |

Variations on a Silence リサイクル工場の現代芸術 Art/Music/Architecture etc., 2005

羽田空港の対岸、城南島に完成したばかりのリサイクル工場で、国内外で活躍するアーティストたちがその<場>を前提にした作品を発表するというアートプロジェクト。サウンド・アートやインスタレーションなどの展示の他、ライヴ・パフォーマンスやアーティスト・トーク、レクチャーなどを行い、リサイクル工場という空間の持つ現代性を各アーティストの表現を通して多角的に検証した。

会期:2005年5月13日[金]→ 29日[日]
開館時間:13:00→19:00(日曜日は12:00→17:00)
会場:リーテム東京工場
出展作家:刀根康尚、クリスチャン・マークレー、近藤一弥、ポル・マロ、710.beppo、平倉圭
主催:株式会社リーテム
建築設計:坂牛卓/O.F.D.A.
企画・制作:SETENV
協力:ギャラリー小柳、白石コンテンポラリーアート
技術協力:株式会社メディアプロデュースジャパン
機材協力:ヤマハ株式会社、パイオニア株式会社
助成:財団法人野村国際文化財団

告知サイト:http://variations.jp

関連イヴェント

◎ Variations on a Silence 《Concert》

本プロジェクトへの参加にあわせて来日するクリスチャン・マークレーと刀根康尚を筆頭に、国内から近藤一弥、710.beppo、さらにスペシャル・ゲストとしてSachiko M、Heckerが参加。プロジェクトのライヴ・ヴァージョンとして、国際的にも注目されるアーティストたちが結集。
コラボレーションCD「Palimpsest」(MEGO/2004)をリリースしている刀根康尚とHeckerによる日本国内では初となるパフォーマンスや、クリスチャン・マークレー(アコーディオン)とSachiko M(サインウェーヴ)のコラボレーションの世界初演が実現しました。

・日時:2005年5月11日(水) OPEN 18:00 / START 18:20
・会場:代官山・UNIT
・出演:Christian Marclay + Sachiko M、刀根康尚、Hecker、近藤一弥、710.beppo
・主催:株式会社リーテム
・企画・制作:SETENV
・協力:O.F.D.A.、ギャラリー小柳、白石コンテンポラリーアート
・機材協力:ヤマハ株式会社


◎ クリスチャン・マークレー+フロー・カウフマン「タブラ・ラサ」

ターンテーブルを駆使したコンセプチュアルなパフォーマンス「タブラ・ラサ Tabula Rasa」。
クリスチャン・マークレーがレコードなしのターンテーブル3台で様々な音を作り出すところから、パフォーマンスは始まります。その音は、フロー・カウフマンの操作する記録装置によってリアルタイムにレコード上に刻み込まれます。最初のレコードができあがると、マークレーはそれをターンテーブル上でさらに ミックスし、次のレコードへと加えていきます。パフォーマンスが進むにつれ、ターンテーブルが生み出す音と、その場で行われるリミックスとによって、音は複雑に層をなし、重なりあっていきます。
「ターンテーブリズム」の先駆者による、自己生成する音のリサイクル。ベルン、ロンドンでの公演で話題を呼んだ本作の日本初演。

5月13日[金]18:30開場 / 19:00 - 20:00
会場:リーテム東京工場


◎ 710.beppo「バイブレーションズ・オン・ア・サイレンス」

工場内に設置された710.beppoの作品を舞台とする体験型ライヴ・パフォーマンス。
物理現象としての音を追求してきた710.beppo。今回は、産業用の振動子と超音波発生装置を用いた作品を制作。空気振動ばかりでなく、人間の身体に直接伝わる振動を「音」としてとらえ、それを時間軸上で操作することによって「音楽」として提示しました。パフォーマンスでは、観客の方に作品の上に乗っていただき、アーティストと対話しながら、その効果を体感していただきました。

5月14日[土]15:00 - 19:00、5月29日[日]15:00 - 17:00
会場:リーテム東京工場
※上記時間中随時

関連プログラム

◎ アーティスト・トーク:ポル・マロ

5月15日[日]14:00 -


◎ レクチャー:平倉圭「ゴダール的連結」

ジャン=リュック・ゴダールの1970年代以降の映画作品における「音―映像の連結原理」を分析。
5月28日[土]14:00 -


◎ アーティスト・トーク:近藤一弥「安部公房と現代芸術」

三浦雅士氏(文芸評論家)をゲストにお招きしての対談。
5月28日[土]16:00 -


◎ パネルディスカッション:坂牛卓「建築の外部/外部の建築」

リーテム東京工場の設計者坂牛卓とゲストによるディスカッション。
ゲスト:今村創平(建築家)、南泰裕(建築家)、山本想太郎(建築家)
5月21日[土]16:00 -


◎ ギャラリーツアー

会期中の週末に、ギャラリー・ツアーを開催。
現代美術に今まで親しみのなかった方も対象に、個々の作品に留まらず「リサイクル工場という空間=環境」そのものを楽しんでいただくプログラム。

3/6コース:
個々の作品をじっくり鑑賞したいという方を対象に、30分程度で展覧会の中から3作品を選んで鑑賞するツアー。

6/6コース:
展覧会全体のテーマや雰囲気を楽しみたい方を対象に、40分程度で展覧会の6作品全てを鑑賞するツアー。

日時
5月21日、28日[土] 14:00 15:00 16:00
5月22日、29日[日] 13:00 14:00 15:00


※ 会場:リーテム東京工場

プロフィール(※2005年当時のもの)

刀根康尚

1935年東京生まれ。1958年頃から即興演奏を始め、1960年に小杉武久、水野修孝、塩見允枝子らとともに即興演奏集団〈グループ・音楽〉を結成、以降、音楽と美術の境界を超える活動を行う。ハイレッドセンターや暗黒舞踏派などとコラボレーションを行う他、美術、音楽雑誌等に多くの文章を発表。また、一柳慧を通じてジョージ・マチューナスを知り、フルクサスに合流する。日本の前衛芸術および前衛音楽に大きな影響を残し、72年渡米。以降ニューヨークを拠点に活動し、ジョン・ケージやデイヴィッド・テュードアらとともに、フルクサス、マース・カニングハム舞踊団などのイヴェントにしばしば参加する。85年からはプリペアされたCDを用いたパフォーマンスを開始。90年代に入り作品がCDでリリースされるようになると、サウンド・アートやテクノ以降の電子音楽の文脈からも注目を集め、驚嘆をもって迎えられた。2001年に横浜トリエンナーレに出展、2002年には国際的なメディアアートの祭典「アルス・エレクトロニカ」においてデジタル・ミュージック部門の金賞を受賞している。代表的な作品に、万葉集四千五百首あまりを構成する漢字を全てデジタル化された画像で表現し、それを音声データとして出力させる「Wounded Man'yo」のシリーズなどがある。音声メディアとテクノロジーを対象化する理論的な考察に支えられ、恣意的な操作を排除する方法によって音楽の外部へと超越する刀根康尚の芸術は、自己充足した作品への批判であると同時に即興への批判でもあり、音楽そのものの破壊的再生となっている。

クリスチャン・マークレー

1955年生まれ。
1979年にレコードとターンテーブルを用いたパフォーマンスを開始。これはターンテーブルを楽器として用いた最も早い例の一つとなる。
80年代からは、レコード盤や、電話、楽器、磁気テープなど、音に関連する事物を素材とした造形作品や映像作品の制作を行う。その作品は、音および音に対する我々の反応を、歴史や文化のコンテクストとともに取り上げ、「いまだ聴かれたことのない音の記憶」として我々のもとへ差し戻す。
代表的な録音作品に、レコードをジャケットなしで流通させ、その過程で盤面についた傷による音をも作品に取り込む「Record without a Cover」(1985)、オペラ、ロックからジョン・ケージまで様々なレコードを貼りあわせてプレーした「More Encores」(1989)などがある。また、ジョン・ゾーン、リー・ラナルド/サーストン・ムーア(ソニック・ユース)、大友良英ら多様なアーティストともコラボレーションを重ねている。
1995年のヴェネチア・ビエンナーレなどをきっかけとして、現在、国際的にも最も注目されるアーティストの一人であり、アートとサウンドの領域を横断する活動を続けている。2004年にはMOMA、ICC(初台)などのグループ展に参加、Tate Modernでもパフォーマンスを行った。2005年にも海外の複数の美術館で展示が予定されている。

近藤一弥

1960年東京生まれ。
1982年成城大学文芸学部芸術学科卒業。美学、映画理論を専攻。1985年桑沢デザイン研究所グラフィック研究科卒業。1992年カズヤコンドウ設立。アート関連のエディトリアル、ブックデザイン、ポスターデザインを中心にグラフィック・デザイナーとして活動する。
コンテンポラリーダンスや現代美術のヴィジュアルおよびカタログデザインで、作品と観客との間に生じる固有の往復運動を、プリントメディアを通じて感覚的に再現しようとする。それらは斬新かつコンセプチュアルなカタログデザインとして、「もうひとつの展覧会」とも評されている。また、『安部公房全集』(新潮社)のブックデザインでは文学全集の新たな可能性を提示し、1998年に東京ADC原弘賞を受賞した。
2002年からは、安部の最後の仕事部屋とフロッピーディスクに残された未完の小説を主題に、映像によるインスタレーション作品を発表(2003年に世田谷文学館で行われた「安部公房展」に出展)。創造の瞬間の再生と組みかえといった新たな創作活動を行っている。現実とそれを映し出すイメージが、常に合わせ鏡のように無限に連鎖し、響きあう終わりのない世界が、そこに展開される。
http://www.kazuyakondo.com

ポル・マロ

1967年ドイツ・ニュルンベルク生まれ。
カリフォルニア大学バークレー校、ウィスコンシン・マディソン大学などで哲学およびリベラル・アーツを専攻。1997年、ケルンのメディア・アート・アカデミーで学士号を取得。1998年に来日。東京で音楽レーベル「茶柱Cha-Bashira」を立ち上げ、同時にアート・ショップを展開。山辺圭司(Los Apson?)、野界典靖(Kurara Audio Arts)、中原昌也らと交流を深めながら、自らもミュージシャンとして、フィールド・レコーディング作品を発表したり、ライヴ活動を行った。
2002年以降は活動の場を美術のフィールドに移し、身の回りにある日用品を主な素材として用いたインスタレーション作品を発表。「こもれび」展(水戸芸術館現代美術センター/2003年)、「六本木クロッシング:日本美術の新しい展望2004」(森美術館/2004年)などのグループ展に参加、SCAI THE BATHHOUSEで個展(2004)を開催している。2003年・2004年には、武蔵野美術大学で連続講義を担当した。
彼の作品のテーマのひとつは、集団的な想像界において、神経生理学的ないし生物学な意味で、また空間的な観点から、どのように「リアリティーの構築」がなされるのかというもの。そして、誰もがスケッチ的で未完成な性質の知覚や方向感覚を通して世界を見ていることや、二つのものの中間にある文化が持つ空間性やリアリティーといったテーマが、しばしばそこに重なっている。彼の作り出すインスタレーションは、観客に作品の一部となるよう働きかける、それ自体多様な環境として機能するのである。

710.beppo

vokoiと古舘健によるユニット。
国内外の電子音楽、実験音楽のライヴ・イヴェントに多数参加。VJとして、Sonar Sound TokyoやMetamorphoseにも出演する。ヨーロッパ5カ国をまわった2003年のライヴ・ツアーは話題を呼び、同年10月には後藤英とともにポンピドゥ・センターにてパフォーマンス「CsO」を発表、フランスの各メディアによって報道された。
物理現象としての音をテーマとした、建築的志向を持つサイトスペシフィックなインスタレーションの制作にも積極的に取り組んでおり、2003年の東京デザイナーズブロックにおける展示はその最初の成果となった。
なお古舘健は、出演者を公募しサイン波のみを用いて一斉に演奏するというプロジェクト〈The SINE WAVE ORCHESTRA〉の企画制作を担当、2004年のアルス・エレクトロニカでHonorary Mentionを受賞している。

平倉圭

1977年生まれ。
ICUで哲学、東京大学大学院で哲学、映画理論、生態心理学を専攻。1998年頃より制作を始め、2000年にアート・ユニット〈bleakground〉を結成する。2001年、名古屋市民ギャラリー矢田の会館記念展「現代美術2001 NAGOYA」にコンペ入選。壁面にドローイングと文字をスーパーインポーズした画像を配置し、ラバーシートを敷いた床の上を観客が運動しながら鑑賞するというインスタレーションを出品した。
絵画、インスタレーション、テクストによる作品制作のほか、映画、近現代美術についての研究も行っている。その活動は、いわば〈イメージの連結原理〉についての探究であり、その視点から、概念構築と作品制作の実践が同時に成立する地平を模索しつつある。
論文に、「ゴダール的連結と「正しさ」の問題」(『表象文化論研究』第3号、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論、2004)、「見えないことの威力が押し潰す―安藤洋子×ウィリアム・フォーサイス」(『BT美術手帖』vol.56/No.849、美術出版社、2004)、「ベラスケスと顔の先触れ」・「斬首、テーブル、反‐光学――ピカソ《アヴィニョンの娘たち》」(小林康夫編『美術史の7つの顔』所収、未來社、2005)などがある。
http://hirakurakei.com/

コンサート:プロフィール(※2005年当時のもの)

クリスチャン・マークレー

現在は現代美術のフィールドでも世界各地で作品を発表し、最も注目を集めているアーティストの一人であるマークレーは、1979年にレコードとターンテー ブルを用いたパフォーマンスを開始。最初にして最強のターンテーブル奏者であり、1988年には音楽史に残る問題作「More Encores」をリリース。並ぶ者のないテクニックと絶妙のセンスであらゆるジャンルの音楽を解体しコラージュするスタイルにより圧倒的な支持を受け、 ジョン・ゾーン、リー・ラナルド/サーストン・ムーア(ソニック・ユース)、大友良英らとコラボレーションを重ねる。アートとサウンドの領域を横断する活動を続けるマークレーにとって、今回は日本では久々の本格的ライヴとなる。

Sachiko M

1994年からサンプラー奏者として活動。1998年、それまでのスタイルを一変させ、サンプラー自体がもともと持っているテストトーン(=サインウェー ヴ)を再利用する独自の奏法を開始。サインウェーヴのみを使ったエクストリームなソロ「Sine Wave Solo」(2000)を発表し、イギリスの『Wire』誌、ヨーロッパのフェスティヴァル等、各方面からの注目を一気に集める。以降、大友良英との 〈Filament〉を中心に、エレクトロニクストリオ〈I.S.O.〉、中村としまるとのデュオ等、様々なアーティストとともに、日本の電子音楽、インプロヴィゼーションのシーンの最先端に位置する。吉田アミとのデュオ〈cosmos〉は〈Astoro Twin〉とともに2003年アルス・エレクトロニカのデジタル・ミュージック部門金賞を受賞。

刀根康尚

1958年頃から即興演奏を始め、1960年に小杉武久らとともに〈グループ・音楽〉を結成。また、美術・デザイン雑誌を中心に多くの文章を発表し、音楽・美術・批評の境界を超えるその先鋭的な活動は今や伝説化している。1972年に渡米して以後はニューヨークを拠点に活動。ジョン・ケージやデーヴィッド・テュードアらとともに、フルクサスやマース・カニングハム舞踊団などのイヴェントにしばしば参加する。1985年からはプリペアされたCDを用いたパフォーマンスを開始。90年代に入り作品がCDでリリースされるようになると、サウンド・アートやテクノ以降の電子音楽の文脈からも多大な注目を集め、驚嘆をもって迎えられた。2002年アルス・エレクトロニカのデジタル・ミュージック部門金賞を受賞。

Hecker

電子音楽更新の拠点となったウィーン発のレーベルMEGOの中心アーティストの一人。1996年以降、ソロ活動の他、ペーター・レーベルク(pita)、 ラッセル・ハズウェル、カールステン・へラー、フロリアン・プムフースル、マーカス・シュミックラー、Shunichiro Okada(id)、刀根康尚らとコラボレーションを展開。〈Farmers Manual〉のオスヴァルト・ベルトルトとのユニット〈cd_slopper〉としても知られる。コンピューター・ミュージックの極限を追求し続けるその強力な音は、リスナーを打ちのめすと同時に力づける。

近藤一弥

エディトリアル、ブックデザイン、ポスターデザインを中心にグラフィック・デザイナーとして活動。『安部公房全集』(新潮社)のブックデザインでは文学全集の新たな可能性を提示し、1998年東京ADC原弘賞を受賞している。 2002年からは、安部公房がフロッピーディスクに残した未完の小説を主題に、インスタレーション作品を発表。今回は、安部公房が使用していたアナログシ ンセサイザーなどの音を取り込んだ電子音楽+映像を展開する。

710.beppo

vokoiと古舘健による映像/音響/空間演出ユニット。国内外の電子音楽、実験音楽のライヴ・イヴェントに積極的に参加。VJとして、「Sonar Sound Tokyo」や「Metamorphose」にも出演する。ヨーロッパ5カ国をまわった2003年のライヴ・ツアーは話題を呼び、同年10月には後藤英と共にポンピドゥ・センターにてパフォーマンス「CsO」を発表、フランスの各メディアによって報道された。物理現象としての音を、単に空気振動だけでなくあらゆる物体の振動へと拡張して捉え、それを時間軸上で操作することで音楽として提示するという新たな地平を切り開きつつある。今回はエクストラメンバーを加え、スピードコアを初披露。

パネルディスカッション:プロフィール(※2005年当時のもの)

坂牛卓

1959年東京都生れ / 1983年 東京工業大学工学部建築学科卒業 / 1985年 UCLA大学院建築学科修了 / 1986年 東京工業大学大学院修士課程修了 / 1986年(株)日建設計入社 / 1998年 O.F.D.A associates 設立。現在、信州大学助教授、東海大学非常勤講師。主な作品に《連窓の家#1/#2/#3》《大小の窓》(共同設計)など。著書に『篠原一男経由東京発東京論』(鹿島出版会、共著)など。

今村創平

1966年東京生まれ / 1989年 早稲田大学理工学部建築学科卒業 / 1990-1992年 AAスクール / 1993-2001年 長谷川逸子・建築計画工房(株)/ 2002年 設計事務所アトリエ・イマム設立 / 2003年 プロスペクター設立。ブリティッシュ・コロンビア大学非常勤講師、京都造形大学非常勤講師。主な作品に《富士ふたば幼稚園》など。共著『Tokyo from Vancouver』、建築雑誌等への寄稿多数。

山本想太郎

1966年東京生まれ / 1991年 早稲田大学大学院修士課程修了 / 同年~2003年(株)坂倉建築研究所勤務 / 2004年 山本想太郎設計アトリエ設立 / 2003年 プロスペクター設立。主な建築作品に《水戸N邸》《国分寺の家》《小豆沢704》。訳書『テクトニック・カルチャー』(TOTO出版、共訳)。

南泰裕

1967年兵庫県生まれ / 1991年 京都大学工学部建築学科卒業 / 1997年 東京大学大学院博士課程単位取得退学 / 同年アトリエ・アンプレックス設立 / 2003年 プロスペクター設立。現在、東京大学、明治大学、東京理科大学、東京外国語大学非常勤講師。主な作品に《PARK HOUSE》など。主な著書に『住居はいかに可能か』(東京大学出版会)、『ブリコラージュの伝言』(アートン)。

解説

「完成直後のリサイクル工場で何かできないか」と声をかけられたことから全ては始まった。
設計プランを聞き、実際の建設予定地に足を運んで出した結論は、その工場でエキシビジョンを行うというものだった。東京湾の人工島に立地する特徴的な工場空間、そして対岸には羽田空港が位置し、飛行機が頭上をかすめて行き来するというランドスケープ/サウンドスケープのただなかで、その強烈な物理的・社会的環境とアーティストたちの創り出す作品とが鑑賞し、多様に響き合う〈場〉になることを目指した。
私たちSETENVからアーティストに伝えたのは、そのような環境を前提とし、この場所を意識した作品にしてほしいということのみだった。主に使用済みの電子機器から金属を回収するリサイクル工場である。アーティストは、実際に稼働している既存のリサイクル工場を見学し、建設現場にも足を運び、継続的にやりとりを重ねながら作品を準備した。リサイクル工場とアーティストの邂逅、ストレートではあるが、それが本プロジェクトの核である。

刀根康尚は〈グループ音楽〉などを通じて日本の前衛芸術に大きな影響を残し、72年に渡米したアーティスト。90年代に入って作品がCDでリリースされるようになると、サウンド・アートやテクノ以降の電子音楽の文脈からも驚嘆をもって迎えられた。今回、周囲の環境音、工場の作業音などを取り込み、センサーによって検知される観客の動きに合わせて変化うするサウンド・インスタレーションを制作。一瞬として同じ音はなく、観客は知らず知らずのうちに自らも「騒音」のリサイクルの過程に組み込まれていく。
クリスチャン・マークレーはターンテーブル奏者の先駆者であり、また、レコード、楽器、楽譜など音に関連する事物を素材とするインスタレーションで国際的な注目を集めるアーティストでもある。今回の作品では、任務を終えたデスクトップPC、ラップトップPC、そして携帯電話のスクリーンに、それら自身がバラバラに解体され分別されていく行程が映し出される。それらの製品が本来発していたはずの音とはかけ離れた、リサイクル過程で響かせる音も、重要な要素だ。機械たちが自らの無意識や夢を語っているかのような傑作が生まれた。
近藤一弥は、安部公房の最後の仕事部屋と彼のフロッピーに残された未完の小説を主題とする映像インスタレーションを出展。2002年以来進化しつづけているこの作品に会場の特徴を取り込んでシェルター的な空間を構築し、映像もヴァージョンアップした。現実とそれを映し出すイメージが無限に連鎖し、響きあう。

ポル・マロは、工場建設の際に廃材となった大量の発泡スチロールを利用したインスタレーションを、現地で1ヶ月かけて制作した。やわらかな色合いの発泡スチロールが林立し、ほのかにアロマが漂う、懐かしさを感じさせると同時に新鮮な空間を構成している。「脳のリサイクル」としての早期の問題がテーマである。
平倉圭は、工場での解体過程を見つめ、そこに彼が「準−部分」と名づけることになった、ある不確定な状態のモノを見出す。解体の中間過程にあるモノは、意味のある「フォルム」でもなく、意味を消去された「マテリアル」でもない、あいまいな何かだ。この「準−部分」の生成過程の映像と、その記述を試みるテキストが、3つのスクリーンに映し出される。
vokoiと古舘健によるユニット710.beppoは、鉄板に取り付けた工業用バイブレーターをコンピューターで制御し、物体の振動そのものを時間軸上で操作することで「音楽」として提示する作品を制作。観客はその「楽器」の上に乗り、それを直に体感する。この作品も、その発想の源泉のひとつに、リサイクル工場で用いられる金属破砕機の振動が存在している。

こうした展示とともに、関連イベントも行われた。マークレーとフロー・カウフマンによる、ターンテーブルとレコードカッターを駆使したコンセプチュアルなパフォーマンス「タブラ・ラサ」では、自己生成する音のリサイクルが工場で展開された。
代官山・UNITで行われたコンサートでは、刀根康尚とHeckerによる日本国内では初となるデュオに加え、マークレーとSachiko Mによる初の共演などが繰り広げられた。

「環境」や「リサイクル」は、もっぱら社会的、政治的、経済的なコンテクストのみで語られることが多い。その最前線にアートが介入することで、このテーマをいかにとらえ直し、コミュニケートすることが可能なのか。「Variations on a Silence ―リサイクル工場の現代芸術」は、そのことを追求した。そして、この問いはまだ、私たちに開かれている。

入江拓也(SETENV)